電車の中で、暑いのに可愛い紐靴を履いている方をふと見かけて、思い出したことがあります。
元夫と美容室をしていた頃、何かを買うには必ず夫の許可が必要でした。
靴下に穴が空いた時、20代も30代も、今も変わらないのですが、私が小学生の頃の靴下は、親指のあたりにぽっかりと穴が開くものでした。その都度、縫って直していました。でも、私が20代30代の頃履いていた靴下は、穴が開く前に、足の指先から足の裏まで薄く薄くなっていき、そして破れてしまうものでした。
夫に「靴下を買っていい?」と聞くと、必ず「縫え!」と言われました。「これはもう縫えない」と伝えても、「縫え」でした。破れた靴下を見て夫が言った言葉は、死んでも忘れません。
「お前がその靴下を買う事で生活ができなくなったらどないするねん!」
毎日毎日、朝から晩までパチンコへ行き、レジから釣り銭を掴んで出て行く人間に、なぜそこまで言われなければならないのか。私には行く所も、帰る場所もありませんでした。ようやく許可を得て、靴下を買いました。当時、一足100円、3足で298円でした。
靴下だけではありません。もっと恥ずかしい思いをしたのは、靴でした。
当時、合皮かナイロンだったのか、仕事にもどこへ行くにも、その紐靴一足しか持っていませんでした。買えなかった。買うことを許されなかったのです。真夏でも真冬でも、その靴一足で過ごしていました。
次第に靴先が破れてきました。靴の内側もボロボロで、どうしようもなくなり、新しい靴が欲しいと夫に言いました。夫の口から出た言葉は、
「ガムテープ貼れや」
「えっ?」と聞き返すと、「ガムテープ貼ったらええねん!」でした。
商売をして、人前に立つ仕事です。そんなみっともないことができるのか。自問自答しましたが、貼るしかありませんでした。一箇所破れてはガムテープを貼り、また別の場所が破れては貼る。靴の内側は、いつしかガムテープだらけになりました。美容師の仕事柄、切った髪の毛が中に入り込み、靴の中は毛だらけになって、それを毎日剥がしては貼り替える日々でした。
そんなある日、近所の商店で買い物をしている時、子供がトイレに行きたいと言い出し、お店の方にお手洗いを借りることになりました。個人店で、靴を脱いでトイレに向かう造りのお店でした。
靴を脱がなければならないのか――仕方なく、子供と一緒についていきました。どうしよう、恥ずかしい。パンツの裾で隠れてはいましたが、ガムテープを貼った靴の内側が、少し見えていました。
お手洗いを済ませて戻ると、私と子供の靴が、きちんと向きを変えて揃えられていました。ガムテープのことばかり気にしていた私は、子供に教えるべきマナーすら、その時教えられていなかったのだと気づかされました。
あの靴をいつ買い替えられたのか、今はもう記憶がありません。苦しめられたこと、恥ずかしい思いをしたこと――元夫が亡くなった今も、こうして蘇ってきます。
こんなふうに、あなたをぞんざいに扱う人とは、離れてください。
あなたのミカタ #8778
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