夫と一緒に店をやっていた頃とはまったく違う、大型店舗。しかも低料金という、私にとっては未知の世界でした。慣れるまで、何度も涙を流しました。もっとも、夫は仕事などしていませんでしたが……。
受付でお客様のお名前をお聞きするのも、一苦労でした。
「今日はどうされますか?カットですか?カラーですか?パーマですか?お名前は?」
そう聞くと、返ってきたのは「ない」の一言でした。はぁ?もう一度「お名前を教えてください」と聞いても、「無い」とツンとそっぽを向かれてしまいます。
どうしようかと焦っていると、女性のスタッフが「どうしたん?」と声をかけてくれました。名前を教えてもらえないのだと伝えると、彼女はこう言いました。
「ええか?私がお手本見せるから、しっかり見ときや。」
「お客さまお名前お願いします。」
先ほどの、意地の悪そうな年配のお客様は、また「無い」と答えます。すると彼女は、表情ひとつ変えずにこう言いました。
「名無しさんでよろしいですね。」
お客様は「名無し違うわ!」と喚き始めました。それでも表情を変えずに「お名前は?」と聞くスタッフ。お客様はまた「無い」と答えます。
「じゃあAさんでよろしいですか?Bさんですか?」
「あるわぁ!」
このやり取りが、この店では普通なのかと怖くなりましたが、顔色ひとつ変えずに対応するスタッフに、かっこいいと思いました。結局、そのお客様はやっと自分の名前を口にしたのですが、何がしたかったのかは、今もわかりません。低料金のお店には、こういう方たちが集まる場所なのだと感じました。
そして何より、スタッフの強さに憧れました。彼女はこうも言ってくれました。
「困ったら自分一人で何とかしようと思わんと、何でも言うてや。」
その言葉に、心がじんわりと温かくなりました。28年間、誰にも頼らず、一人で生きてきた私だったからです。
困ったら、誰かを頼っていい。時代は変わってきました。もし辛いと思ったら、どうか#8778にお電話ください。
ちなみに、自分の名前を「たこ焼き」と答えるお客様もいました。「カットでお待ちの、たこ焼き様!」と呼ぶスタッフも、呼ばれるこちらも、少し恥ずかしい思いをしました。
📞 #8778
各都道府県の女性支援センターにつながります。
詳しくはこちら→ https://www.mhlw.go.jp/anata-no-mikata/



コメント