「嫁のくせに」「嫁が働いて当たり前」
夫と姑から、そう怒号を浴びせられる毎日を、私はずっと生きてきました。誰かに頼るということを、私は知らずに大人になったのだと思います。全部、自分で抱え込むのが当たり前でした。
夫は仕事もせず、パチンコ三昧の日々でした。たまに仕事をしたかと思えば、始めたのは怪しいマッサージ業。その稼ぎも、結局はすべてパチンコに消えていきました。
そんな暮らしから飛び出して、私が足を踏み入れたのは美容室でした。10人の男性スタッフがいるその職場は、私にとって驚きの連続でした。男性が働いていること自体が、不思議で仕方なかったのです。それくらい、私の知っている「当たり前」は狭かったのだと思います。
朝は、出勤してきた人からタオルを畳む。シャンプー剤の棚に詰め、イヤーキャップを重ねてワゴンに入れる。今まで自分のペースでやってきたことを、すべてお店のシステムに合わせていく。早く慣れなくては、と、私は誰よりも早く出勤しては、黙々と手を動かしていました。
そんな私に、ある男性スタッフが柔らかい口調でこう声をかけてくれました。
「何でも自分で抱え込まんと、誰かを頼って仕事しいや」
正直、その言葉の意味が、私にはまったく理解できませんでした。誰かを頼るって、どういうこと? どんな時に、頼っていいの? そんなことを言ってもらった経験がない私は、何と答えればいいのかもわからず、ただ戸惑うだけでした。誰も助けてくれない環境から、頼っていいと言われる環境へ――その変化に、心がついていきませんでした。
そんな私に、頼ることを教えてくれる出来事がありました。
ある日、担当したお客様がファッションカラーをご希望でした。まだこの店でカラーの経験がほとんどなかった私は、色味を聞かれても答えられず、立ち尽くしてしまいました。そこへ、店長からは次の指示が飛んできます。行かなければ。でも、目の前のお客様はどうすれば――そう困り果てていた時、
「代わります」
そう言って、あの男性スタッフが来てくれました。私は「後は頼みます」とばかりに、すべてを託して次の施術へと向かいました。生まれて初めて、誰かに丸ごと任せるという経験でした。後ろ髪を引かれる思いで、その場を離れたのを覚えています。
店が落ち着いた頃、私は彼のところへ行きました。
「先ほどは丸投げしてすみませんでした。ありがとうございます」
すると彼は、こう返してくれました。
「そんなこと気にしないで、これが僕らの仕事やから」
その一言に、私はどれほど救われたことでしょう。誰にも頼れなかった私が、初めて「頼っていい」と体で覚えた瞬間でした。その時、男前だった彼が、さらに一段と男前に見えたのを、今でもはっきりと覚えています。
あなたのミカタ #8778
各都道府県の女性支援センターはこちら
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/soudankikan/01.html


コメント