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保護施設で出会った方の中で、今も忘れられない方がいます。北さん(仮名)です。施設を出て働き始めてからも、10年以上の年月が経った今も、北さんがどうしていらっしゃるのか、ふと気になります。
北さんは、仕事から帰宅した夫から、毎日のように殴る蹴るの暴力を受けていたとお聞きしました。束縛もひどく、私自身が受けてきたことと重なる部分が多くて、北さんとお話しする機会は非常に多かったと記憶しています。
隣近所の方々は、北さんが夫から被害を受けていることをご存知だったそうです。泣き叫ぶ声、「やめて」という悲鳴、「殺すぞ!」と脅す夫の声を聞いた方々は、北さんのことを心配されていたといいます。
けれど、少し離れたところでは違いました。良い面だけを見せる仮面を被った夫は、何度も骨折して整形外科に通う妻に、甲斐甲斐しく寄り添う「良い夫」として見られていたそうです。
骨折するまで暴力を振るったのは、その夫です。一回、二回ではありません。北さんの体には、全身に骨折の痕がありました。
整形外科の先生も、付き添ってくる夫に違和感を感じていらっしゃったようでした。それでも、毎回夫が付き添ってくるので、北さんに「逃げるように」となかなか伝えにくかったのではないか――北さんは、そうお話ししてくださいました。
北さんは、夫が仕事で留守にしている間に、隣人から保護施設のことを聞き、準備を整えて、保護施設に来られたのだそうです。
北さんは、私に本名を伝えることはできないとおっしゃっていました。保護施設では通称名で通します。他の誰かが施設を出たときに狙われる危険性を考えてのことです。私自身も、本名ではなく通称名を名乗っていました。女性を保護する施設だからこそ、そこまでの用心が必要なのです。
北さんのご自宅は、夫が暴れて壁やガラス、家具などが破壊されていたそうです。私自身も、元夫が暴れて壁に穴が空いていました。
この破壊行為は飲酒してではありません。北さんの夫も私の元夫も酒は飲みません。飲まずに暴れる。これをどう捉えるかです。
「このままだと殺される。」
そう思い、やっとの思いで保護施設に来られたとき、北さんは60代でした。本当に我慢されたのだと思います。そしてそれは、逃げ場を知らなかったことの結果でもあるのです。
夫からの暴力を受けている方は、すぐに警察、病院、区役所、#8778を頼ってください。DV男は、外面がいいのです。
北さんは、「夫が自分を探している」とおっしゃっていました。夫の親族が誰もいない、県外の場所を探して住むしかないと。もはやストーカーでした。北さんもまた、自由に外に出ることのできない不自由な生活を、今も送っていらっしゃるのだろうか。今、どうなさっているのか。どうか、幸せでいてほしいです。
北さんとの別れは、突然でした。それでも北さんは、いつこの保護施設を出るかをご存知でした。施設の車を使う玄関で、「元気でね。」と言う北さんの手を、私は強く握りました。お互いに、両手で強く握り合いました。車に乗り込む北さんの姿を、今も覚えています。
北さん、幸せでいてください。
📞 #8778
各都道府県の女性支援センターにつながります。
詳しくはこちら→ https://www.mhlw.go.jp/anata-no-mikata/


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